出しそうだった。彼はぎくりとして、じっとしていられなくなった。
「余り考え込むといけないよ。」と彼は云った。「もっと呑気に楽天的にしっかりしていなければ、世の中に生きていられやしないからね。お前は実際、一家の主婦で中心なんだから、お前がいなければ何もかもばらばらになってしまうのだから、そのことをよく心の中に据えといて、俺のために……皆のために、じっと落付いていてくれよ。頼む、ほんとに頼むから。俺もお前の話を聞いていると、何だか変な気持になってきそうだ。そんなのはいけない考えの証拠なんだ。どこか間違ってるに違いない。」
 云ってるうちに、彼は自分でも自分の言葉が腑に落ちなくなって、また黙り込んでしまった。それから、もう寝るように彼女に勧めた。彼女はおとなしく彼の言葉に従ったが、ただ、一言独語の調子で尋ねかけた。
「あなたは、もし誰にも一人も子供が出来なかったとしたら、どうなさるつもりだったのでしょう。」
「もう云わないでくれ。変な気がするから。」
 そして彼は其処に、一人起きていて、腕を組んで考え込んだ。妙に暖いひっそりとした晩だった。もし一人も子供が出来なかったとしたら、その先は――分
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