会合でも催してみようじゃないか。それまでに誰か、お常でも、も一人子供を産んでくれて、十五人になると丁度いいんだが、然し十四人だって、俺の四十という年を逆にした数だから、却っていいかも知れない。」
 八重子は眉根をぴくりとさして、何とも言わなかったが、彼がその日の書信に眼を通し終って生欠伸《なまあくび》をかみ殺してる頃、不意に彼女の方から尋ねかけた。
「あなた、お千代がまた子供を産むと云うのは、本当のことでございますか。」
「本当だとも、そんなことに嘘を云ったって初まらないじゃないか。」
「そして、子供が十四人になったら、皆の顔合せの会をなさるおつもりですか。」
 彼女の蒼白い顔に険を湛えてるのを見て取って、彼は少し云い渋った。
「そうさね、お前が皆の母親ということになってるし、お前だけが俺の正しい妻なんだから、万事はお前の気持次第なんだが……。」
「私はどう考えても嫌ですわ。」
「それじゃ止してもいいさ。……だが、お前はこの頃何だか様子が変なようだが、一体どうしたと云うんだい。それとも、初めからの約束が今になって嫌になったのなら、そうとはっきり云ってごらんよ。俺だって考えを変えないこともないからね。」
「いいえ、そんなことではありません。商売人の不見転《みずてん》なんかに手出しをなさるよりは、はっきりこれこれときまってる方が、まだよいと思っていますわ。」
「それでは、お前の考えてることは一体何だい。俺にはさっぱり見当がつかないんだが……。」
 そして彼は出来るだけ言葉の調子を和げて、彼女の意中を探りにかかったが、彼女はぴたりと心を鎖して一言も洩さなかった。しまいには彼も諦めて、先に床に就いた。
 その夜中に、彼はふと変な心地で眼を覚した。隣りの室に人の気配がするようなので、なおはっきり眼がさめて、気がついてみると、傍の布団に寝てる筈の八重子がいなかった。それが変に気にかかって、だいぶ待って後に、起き上って隣室を覗いてみた。
 彼は喫驚した。八重子がしょんぼりと火鉢にもたれて坐っていて、※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]を襟に埋めて考え込んでいた。
「どうしたんだい。」
 八重子はひょいと顔を挙げて、何かを見定めるらしく彼の立姿をじっと見つめていたが、俄に寒い風にでもあたったかのように、ぶるっと一つ身震いをした。と殆んどすぐにわっと泣き出してしまった。
 彼は
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