に於て、神話の復活を顕現することは容易でない。なぜなら、やはり、常に、文学は現実の転位だからである。
 転位の世界に於ても、取扱われる現実的な事柄は、常に現実の現象の方へばかりかたよりがちであって、現実の精神へはなかなか高まり難い。而も神話の復活は、現実の現象ではなくてその精神なのである。この精神を客観的形象として把握するには、主観を客観と同体に鋳上げることが必要であり、これが転位の世界では容易に出来難いことである。
 それらの実践はさておき、先ず頭では、神話の復活を、文芸のなかに唱道するに止めよう。青春の復活は力であり、神話の復活は精神である。この力をこの精神で貫くことだ。力は地面をのみ匍い廻りたがることがある。精神は空高く飛び去りたがることがある。両者をしかと繋ぎ合せるべきだ。
 この構想を、大東亜の新たな文化に、文芸に、ただ素描として提起することだけでも、何かしら輝かしいものが感ぜられる。これを詳細に述べることは容易でないが、この輝かしいものを内に持つことを、さし当っての出発点としてもよかろう。大陸は老いてるといっても、それは現代の若い支那を指す言葉ではない。島は常に若いといっても、それは現在の南洋諸島の住民を指す言葉でない。前者にはこの言葉を覆えすような光が必要であろうし、後者にはこの言葉を感得させるような光が必要であろう。



底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
   1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング