、きらきらした光が四方へ乱れ飛んだ。数知れない五十銭銀貨が落ち散っていた。
 俺は息をつめて立ち竦んだ。母の顔が眼の前にぽかりと浮出してきた。本当に神をでも涜したような恐ろしさを覚えた。いきなり屈み込んで、何を書いたものがありはすまいかと探した。がそれらしいものは何にもなくて、沢山の護符《ごふう》と宝珠玉《ほうしゅのたま》の瀬戸の破片とばかりだった。俺は半ば壊れた箱の中から、そんなものを掴み捨てながら、打震える涙声で云った。
「早く拾ってしまえよ。」
 そして、まだ大形の五十銭銀貨が底の方に少し残ってるその神箱を、お久と自分との間に据えた。



底本:「豊島与志雄著作集 第二巻(小説2[#「2」はローマ数字、1−13−22])」未来社
   1965(昭和40)年12月15日第1刷発行
初出:「新潮」
   1923(大正12)年6月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年8月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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