、そんな想像をして、心配になってきました。いくらこちらは商売でも、もしもあたしのためにそんなことでもあったら、ほんとにお気の毒です。けれど、その頃村尾さんは至って鷹揚で、お出先の勘定もちゃんとなすってるし、何かといってはあたしにお小遣も下さるし、お盆の時なんか、まとまって助けてもらいました。
「こんなことを、僕からしていいかどうか分らないが、もしお差支えがあったら止めるし、そうでなかったら、してあげよう。」
 言葉は冗談の調子ですが、お客としての云い草じゃないし、眼色がへんに真剣なんです。それをふと真にうけて、あたしは考えこんでしまいました。
「では、お願いしますわ。」
 云うといっしょに、眼の中が熱くなって、涙がいっぱい出てきました。場合がいけなかったんでしょう。前の晩に二人とも酔いつぶれて、朝遅く眼をさまして、夢のような気持でぼんやり顔を見合ってた時でした。村尾さんはあたしの涙を見ると、いきなりあたしの手をとって、お嬢さんか奥さんにでもするように、しおらしくうなだれて仰言るんです。僕は君といっしょになろうとか、君をすっかり自分のものにしようとか、そんなつもりでいるんじゃない。ただ、
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