でしょう。おかしなお父さんだと、はじめは思いましたが、だんだんたつうちに、真実のことを云って下さったんだと、分ってきました。こう云っちゃなんだけれど、お父さん、むかしは随分道楽なすったんでしょう。だから、お父さんの仰言ることは、通り一遍の理屈じゃなく、もとでのかかった、すっかり入れあげた、底まで見とおした、真実のことだと、あたしほんとうに感心しました。男という男は、みんな、うわべはいろいろだけれど、心底は同じものだと、あたしにも分ってきました。だからあたし、どんな人も、ほんとに好きにはならないと、そう決心していました。村尾さんだって、そうです。決して好きになったわけじゃありません。ただ少し、気懸りにはなっていましたが……。
それも、近い頃のことです。あの方のお母さんが亡くなられて、百ヶ日もたってからだったでしょう、急に、しげしげいらっしゃるようになり、しまいには、いつづけなさることさえありました。
「僕はどうせ、病気で死にかかって、危く拾いものをした命だし、母親も見送って、気にかかる者もないし、これからの生涯をどんなにぞんざいに使おうとかまわない。実にさっぱりした気持だ。」
そうか
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