然と想像していただけで、大して興味を持っていなかった。笹部は実業方面のことには更に知識がなく、また興味も持っていなかった。二人の間に持出された話題はみな、二三言で鳧がついてしまった。喜代子までが変に取澄して黙っていた。
 すっかり調子が違ったな、と中野さんは思った。そして喜代子から転じて笹部の方へ向ける中野さんの眼は、沈黙がちなうちに次第に鋭くなっていった。
 中野さんは骨董品をでも鑑賞するような風に、いろんなことを見て取った。――喜代子の顔に、ぽつりぽつりとごく僅な雀斑《そばかす》が見えていた。その今まで気付かなかった雀斑が、心の持ちようによって、彼女の表情を一層底深くなしたり浅薄になしたりした。彼女はやはり、その長い揉上の毛とすっと刷いた眉毛とそれにふさわしい眼とで、美しさに変りはなかった。――笹部は、一寸見たところごく整った顔立だった。がその顔立から、眼も鼻も口も平凡に恰好よく並んでいながら、よく見てると一種の醜い感じが浮出してきた。どこが醜いといって捉えどころのない、云わば、特徴のない凡俗さとでもいうような醜さだった。それから、身体の割合に手首から先が妙に大きくて、手指も長すぎるようだった。いや手全体が長すぎるようでもあった。その手を彼は時々頭の方へあげて、薄い感じのする柔かな長い頭髪をかき上げた。
「若いうちは少しは冒険も面白いよ。まあいろいろなことをやっているうちには、落付くところへ落付くだろうから。」と中野さんは云った。
「いいえそんな……。」と云いかけて笹部はひどく真面目な顔付をした。「真剣な途を進んでるつもりでおります。」
「それもいい。」そして中野さんは話を外らした。「喜代子、お前から海の方へ手紙を貰ってね、返事を上げようとすると、処番地が書いてないだろう。なるほどなと思ったね。」
「なるほどって……どうして。」
「どうしてでもないが……やはり、なるほどさ……。」
 そこで中野さんは行詰ってしまった。
 風のない静かな午後が、いやに蒸し暑かった。蝉の声まで聞えていた。
「今日はゆっくりしていっていいだろう。何か御馳走をしよう。」
「いいえ、またゆっくり頂きますわ。」と喜代子は云った。
 それでも、二人はなかなか座を立とうとはしなかった。共通の話題は何にもないし、仕方なしに中野さんは、海のことを話しだした。地引網のこと、魚のこと、漁夫達のこと、子供
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