かんと空いています。私はのこのこ出て行って、そこに腰をすえるべきでしょうか。長谷川さん、あなたならどうなさいますか。
 私は、自分にあてられたその空席に、背を向けました。そしてこちらへ帰って参りました。若月旅館のお上さんの席は、やたらにお琴をかき鳴らしてごまかしましたが、こんどの席については、逃げだすより外に、ごまかしの仕方がありませんでした。
 けれども、私としては、逃げるというような卑怯な気持ちでは、少しもありませんでした。むしろ、積極的な反抗でした。精一杯の抵抗でした。おわかりになりますかしら。そしてこれだけの力が私にあったことを、ほめて下さいますかしら。
 もうこうなったからには、なおさら、私はあなたに寄り縋ります。覚悟していて下さい。宜しいでしょうね。と言っても、あなたのお側に、なにかの席を欲しがってるのではありません。心と心との宿命的な誓い、それだけが欲しいのです。
 三田の伯母さんは、なにかのついでに、「わたしが話をまとめてあげてもよいけれどね……。」とうっかり洩らしたことがありました。あなたと私との結婚のことを考えたのでしょう。私はふふんと鼻の先で笑ってやりました。あな
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