。自分で布団を敷くんだと、女中と争っている……。
「じゃあ、おやすみなさい。」
 キミ子は真面目な顔付で、黙ってお辞儀をした。
 島村はそこに二人を残して、母屋の寝室の方へ行った。空が晴れてるらしい夜気だ。

     二

 眼がさめたら起上る、というのが島村の生活様式だった。睡眠時間は問題外だ。早く寝ようと遅く寝ようと、翌朝は、眼が覚めた時に起上るのだ。寝床の中で、煙草をふかしたり新聞をよんだりすることを、彼は知らない。起上って、顔を洗って、万事はそれからだ。随って、睡い時にはいつでも眠るということになる。朝食をして、新聞をみて、またすぐに寝床にはいることもある。それを彼は自然的保健法と云っている。
 前晩就寝が遅かったにも拘らず、彼は比較的早く眼を覚して、自然的保健法の習慣で、すぐに起上った。が驚いたことには、朝寝坊だろうと想像していたキミ子が、もうとっくに起上って、女中たちと一緒に立働いてるのだ。室の掃除や、雑巾がけや、庭掃き……。子供たちの学校行の仕度までも手伝ったそうだ。彼が縁側で煙草をすいながら、お早う、と声をかけると、丁寧にお辞儀をして、にこにこして、行ってしまった。おかしな奴だ。そして朝食の時には、女中たちと一緒に食べるんだといってきかない。お惣菜の都合があるからと女中に説かれて、漸く島村と一緒の食卓に坐ったものだ。
「朝っぱらから……困るじゃないですか。」
「だって、あたし、働くのが嬉しいんですもの。でも、先生んとこ、どこも綺麗ね。」
 昨晩とは、また言葉の調子がちがっている。だが、それが自然だった。朝日の明るみで見るせいばかりでなく、彼女は晴れやかな顔をしている。濃い眉毛が健康そうだ。眼の奥には、もう思想の影はない。まるい頬の脹らみに、口が小さい。鼻の下の上唇のみぞが深く切れて、それが大きな目玉と共に、子供っぽく無邪気にも見えれば、また、何だか不幸な運命を表徴するようにも見えるのだ。
「先生んとこに、一週間ばかり置いて下さらない? ちゃんとした家庭で、少し働いてみたいから。」
「主婦のない家庭でも、そう見えるかしら。」
「そんなら、半端な家庭でもいいわ。ほんとに、働いてみたいの。」
「まあ、気まぐれは、よすんですね。ただいるんなら、四五日ぐらい構わないけれど……方々かきまわされちゃあ、こっちから御免だ。」
「大丈夫よ、あたし、女中さんたちの指図
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