庶民生活
豊島与志雄
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(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵
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自動車やトラックやいろいろな事輌が通る広い坂道があった。可なり急な坂で、車の滑りを防ぐためにでこぼこの鋪装がしてあった。自転車の達者な者は、一気に走り降りることも出来たが、昇りはみな徒歩で自転車を押し上げた。
その坂道を昇りきったところ、逆に言えば降り口に、小さな中華ソバ屋があった。その辺一帯は戦災地域で、焼け残りの家と、新たに建てた家と、焼け跡の荒地とが、雑然と入り交っていた。中華ソバ屋は、狭い地所に新築した小さな家で、出来る品物も数少く、ワンタン、ラーメン、チャシュウメン、それから時折シュウマイと、それぐらいに過ぎなかった。その代り、味はよかった。材料の仕入れにも気を使い、作り方にも念を入れ、儲け主義ではなくて味本位だった。だから、常連とも言える客がいつもあったし、遠方からわざわざ食べに来る客
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