だが彼は、無いのを確かめただけで、別に残念そうな顔もせずけろりとしている。
行儀よい食事の仕方などは、彼の人柄に合わなかった。談議の仕方なども放胆だった。戦時中、いろいろなことを談ずる際にも、そんなことを言うのは用心せよと、他人の言葉には忠告しながら、自分ではあたり構わず勝手なことを饒舌った。洩れ聞かれては危いと思われるようなことを、平気で声高に言ってのけた。
なにかしら野性的な強健さが彼にはあったのだ。
この強健さが、三木の表現をオルソドックスなものに持続さしたと、私は観ている。彼は詭弁的な表現をしなかった。如何なる独創的な思想も、オルソドックスな整然たる形で表現された。この表現の故に、一部の人々は彼の独創性を見落して、彼への高い評価を躊躇したことも無きにしも非ずと思える。一般知識階級の間に最も多く読まれた「哲学ノート」や「人生論ノート」を見る時、その独自な見解とその整正な表現との調和に、私は驚嘆する。更に妙なのは、彼の講演である。原稿なしの講演でも、彼の口から出る言葉は、立派な文章をなしていた。原稿を読んでいるかと思えるような調子を取ることが多かった。このために、彼の思想にで
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