の前まで来ると、一人がぴたりと馬を止めて、声をかけました。
「お前は、張達ではないか。」
 張達はとびあがらんばかりに驚いた様子で、それからもう頭をさげて、はいはい……とお辞儀ばかりしています。
 若者は馬からおりて、張達の肩を叩いていました。
「何をしてるのだ、張達、僕が分らないのか。」
「はあ、あなた様は……。」
 張達は上眼使いに、若者の顔を見ていましたが、ふいに、わっと大きな声を立てて、両手を差出しました。
「おう、阮の若者でいらっしゃいましたか。私はまた、匪賊……なにかと思って、びっくり致しました。若様で、……よくまあ無事に帰っておいでになりました。」
「ああ、御無沙汰をした。御両親とも達者かね。」
「はい、それはもう……。」
 張達は涙の眼をしばたたいて、袖で鼻を拭きました。
「お前に逢って丁度よかった。」と阮東はいいました。
「邸まで案内してくれないか。そしてお前から、御無沙汰のお詫びを御両親にしてくれないかね。いきなり馬を乗りつけるのも、ちょっと気が咎めるからね。あの男は、僕の伴をしてくれた友人で仔細ないのだ。」
 阮東は、友の范志清を呼んで、張達に紹介し、それから、家
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