もう用はない。もしあれが私たちの手許にあったとしても、それは私たち自身に投げつけるためではなく、他の陣営に向って投げつけるためであらねばならぬ。
私が彼女の死体のそばへ帰っていったのは、よいことだった。もしもあのまま逃亡したら、私は永く救われなかったろう。私は勇敢に真実を肯定しよう。そして嘘は一切言うまい。私はいま監禁されており、不誠実な自白を誘導されておるが、勝利は常に真実の側にある筈だ。
あれから、私は家に帰る隙がなかった。そのことをも予想して、弓子の書箋――彼女が誰かに長い手紙を書きかけて、それを自ら焼き捨てた、その残りの書箋で、手短かに妹へ手紙を書いた。或は無実の罪を負って暫く家へ帰れないかも知れないこと、決して心配するに及ばないこと、そして最後に、北海道行きを決心したこと、但しいつ行けるようになるか分らないが、その旨を伯父に至急知らせて貰いたいこと、それだけを書いた。そしておばさんの主人に頼んで、家へひそかに届けて貰った。
もう気に懸るものはない。ただ、私の上に押っ被さってきて、私を打ち拉ごうとするものがある。検察当局の重圧であろうか。四方の荒壁の重圧であろうか。然し私
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