もない。この男は無名作家だ、この男は中堅作家だ、この男は一流の大家だと、文壇の者共にはっきり折紙をつけるのは、菊池君にして初めて出来得ることである。
――菊池君は聡明である。多くの人が、菊池君の作品を常識的だと云い、或は常識の裏だと云うが、この常識的だという感じや、常識の裏だという感じは、聡明な心の反映である。特殊な感情や特殊な雰囲気は、聡明な魂にとっては、結局特殊に過ぎなくて、一歩堕すれば痴人の夢となる。尋常なものを尋常な眼で最もよく見て取ること、それが聡明な心の働きである。そして、尋常なものを尋常な眼で最もよく見て取る所に、力強い把握力が生れ、普遍性が生れる。
以上五つの印象をよせ集めると、菊池寛の縮図が出来る。この縮図を拡大して巨大なものにしたのが、実物の菊池寛である。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2005年12月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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