た。もう凡てが終ったと思った。清らかな月の光りと静かな湖水とは彼女の心を孤独にした。
 月光に交って一面に銀の粉が降り来るような静けさを彼女は感じた。空から地に神秘が流るるを。そして自然に熱い涙が眼に湧いてきた。其処に未来の淋しい旅が映っていた。然しその淋しさは彼女の心に泣きたいような感謝の念を一杯に満した。で大空の下《もと》静に神を念じて両手を組んだまま其処に跪いた。



底本:「豊島与志雄著作集 第一巻(小説1[#「1」はローマ数字、1−13−21])」未来社
   1967(昭和42)年6月20日第1刷発行
初出:「新思潮」
   1914(大正3)年2月
入力:tatsuki
校正:松永正敏
2008年10月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全14ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング