時、壺に納めて埋めてあったものらしい。
そういう新聞記事を、彼は二階の室に寝そべって、心の中で繰り返していた。馬鹿馬鹿しいが、それだけにまた空想を誘われた。
ふと、半身を起して眺めると、檜葉や椿の茂みごしに、庭の奥の穴のところに、人影が動いていた。彼が幾度かなしたと同じように、棒切で穴の底をつついてみたり、穴のまわりを踏んでみたりしている。それが、主人の松木庄作だった。
ははあ………という気持と、太い奴だ……という気持とで、彼はのっそり立上って、階下の縁側へ降りていった。
庭の植込の影から、松木は陰欝な顔付でやって来た。朝早くから何処へともなく出かけて行き、夜分になって帰って来て、訳の分らない書類と睥めっこをしてる、いつもの通りの顔付だった。
「今日はお出かけじゃないんですか。」
「ええ。」
ぶっきら棒な返事だけで、縁側に来て腰をかけた。
「何でしょう、あの向うの穴は。」
「さあー、土竜か何か……。」
事もなげに答えて、彼の顔をじろりと見た。が暫くすると、ふいに口を開いた。
「あの分だと、上の石がめり込んでしまうかも知れません。」
「いい石ですね。」
「何に使ったものですか
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