が……。いつ出来たのでしょう。」
梅雨あけの爽かな朝日を受けて、房子が箒片手に、こちらを振向いていた。
「今気がつかれたんですか。呑気ですね。」
縁側から庭下駄をつっかけて、彼はわざわざやって行った。
が、よく見ると、石の側にぱくりと口を開いて、斜めに深くおりていってる穴は、広さはさほどでもないが、何だか大きな洞窟の一部分とでもいうような、測り知られぬ感じを持っていた。その上、穴の口から大きく半円を描いて、二筋三筋断続した地割れがしていた。
「土竜《もぐら》のせいでしょうか。」
「さあ、土竜にしちゃあ……。」
「では……。」
「何だかえたいの知れない穴ですね。」
「ええ、気味の悪い……。これからせっせと塵芥《ごみ》を掃きこんで、埋めてやりましょう。」
然し、彼女が時折掃き込む塵芥では、なかなか埋まりそうもなかった。一時口が塞ったかと思うと、次の降雨の後には、またぱくりと口を開いていた。
彼は何故ともなく、その穴と穴の上の自然石とに、注意を惹かれていった。
二抱えほどの、ただ円っこい普通の石だったが、木石の配置上そこに据えられたものではなく、掘り出されたのか転ってきたのかをそ
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