場裡へ文学を引戻すには、作者自身に強い生活意欲がなければ出来ない。然るに多くの作家は――殊にその大多数のインテリ作家は――生活意欲が甚だ稀薄である。彼等は実生活については、先ず何よりも懐疑家である。
このことについて、私の頭に、ハムレットとドン・キホーテの二つの性格が浮かぶ。
セークスピヤが描いたハムレットと、セルヴァンテスが描いたドン・キホーテとは、世界の文学が有する最も著名な二つの性格である。これについては、ツルゲネーフの言葉を少しく引用したい。
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ドン・キホーテはその理想に対する献身によって色づけられている。その理想のためにはあらゆる困苦に堪え、その生命をも犠牲にする覚悟がある。……彼は同胞のために、人類に反対する力――妖魔や巨人――即ち圧制者に抗せんがために生きる。……それ故に、彼は恐れを知らぬ不屈不撓の人間である。彼は粗衣粗食に甘んじる。他に考えることがあるからである。心は貧しいが、意思は偉大で勇敢である。……ハムレットとは何者か。なによりも先ず解剖、そして自我主義で無信仰。彼は全然自己のために生きる。……だが自分自身を信ずることは――それは自我主
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