という文学上の時代は、そういう時期である。また或る時期には、現実に対する作者の態度が四分五裂して、各人各様の態度をとり、随って作品の種類も雑多になる。謂わば無秩序無統制の時期であって、各種の主義主張が乱立する。現代はその最もよい例である。殊に、現実に対する関心が新らしく、現実探究の各種の途がまだ十分窮めつくされていず、しかも次々に新らしい見解が輸入されている吾国の現代は、その最もよい例である。
 試みに吾国現代の文芸界を見渡して、視野を小説の範囲に限っても、雑多な主義主張が交錯して、渾沌たる状態を呈している。その主義主張のうちには、日々に更改されるものもあり、僅かに余命を保ってるものもあり、忽ちにして死滅するものもあり、僅かに芽を出したに過ぎないものもある。しかもまだこれから、種々のものが現われ出そうな気配である。個々の作家について見ても、鮮明な旗幟をかかげている者もあり、思念の赴くままに自由な態度をとってる者もあり、次第に態度を転向している者もある。文壇というものが解体されたという語は、こういう渾沌状態を巧にいい現わしている。文壇が解体されて、新らしい息吹で各種の部分が別々に生存して
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