だが、「狼」というのがある。――狼の群が一週間も続いて猟師たちから狩立てられる。彼等は傷つき且つ餓えながら、雪の積った曠野の中を彷徨する。時々立止っては一かたまりになって吠え立てる。そしてはまた歩きだす。夜になってもさまよい続ける。
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 狼共は徐に歩いた。死んだような雪は蒼白い眼で彼等を眺めた。上からは何物かどんよりと光って、下では細かい薄い氷が……いやな音を発した……。
 狼共は考えた。やはり後に残った友達の方が正当だった。白い曠野は実際彼等を憎んでいる。彼等が生きていて駆廻ったり蹂躙ったり、安眠を妨げたりするのを憎んでいる――とそんな風に考えた。この果知れぬ曠野が今にもまっ二つに裂けて、すっぽりと彼等を挟みこんで、そのまま葬ってしまうだろうと感じた。そして彼等は絶望した。
「手前、俺等を何所へ連れて行くんでえ?」と彼等は年取った狼を詰問した。「手前途を知ってるかい、何所へ出るんでえ?」年取った狼は黙っている。
 が、一番若い馬鹿な狼が殊更しつこく、こういってつめかけてきた時、年取った狼は振返ってぼんやり彼をながめたが、急に殺気を帯びてきて、返答する代りにざくり
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