ことである。
仮想という語を広義に解釈すれば、あらゆる小説には仮想がある。特定な環境や人物や事件など、一篇の物語を成り立たせる条件は、一つの仮想であるといってもよい。然し私が前にいった仮想というのは、現実そのものの仮想の謂である。人形師が生きた血液の通わない人体を拵えあげるように、生きた情意の脈打っていない魂を作者が拵えあげてることをいうのである。
科学の進歩が人造人間を拵えだしたように、心理解剖の進歩は各種の人造人間を拵えだした。そうまでなった所以は、この心理解剖が全然説明のためのものであって、説明のための説明のあまりに、知らず識らず、現実の仮想にまでふみ出してしまったからである。
ところが、現代の心理的探求は、それらの心理解剖からメスの使い方を習得しながら、全く新らしい方向へ踏み出した。人間の行動を――或は人間を――説明せんがための心理解剖から、人間の精神界を――内部の世界を――描写せんがための心理的叙述となった。
説明のためから描写のためへ、解剖から叙述へ、この変化は非常な飛躍であって、全く面目を異にする作品を生み出す。
この変化には、哲学的な思想的な影響を無視するわけ
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