ね》と かたみに答う。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ](ボードレール、鈴木信太郎訳)
 これは象徴派詩人の自然観であるが、それは自然に対する単なる視察ではなく、自然に対する生活的味到である。そういうところから芸術が生れる。
 然しこれは詩であって小説[#「小説」に傍点]ではない。
 トルストイに「三つの死」という短篇小説がある。その終りの方に、一本の木が切り倒されることが描いてある。朝早く、東がやっと白みかけたころ、森の中で、一本の木が斧で切られている。その斧の不思議な音が、森の中で繰返される。鶺鴒が別な木の枝に逃げる。
[#ここから2字下げ]
下では斧がますますこもった音をひびかせ、みずみずした真白な木屑が露を帯びた草の上へ飛んで、一撃ごとに軽い裂けるような音が聞えた。木は身体全体をびりびりふるわせて、その根の上で喫驚したように揺れながら、曲っては素早くもとへ返った。一瞬間すべてはひっそりと静まり返った。が、また木はぐっと曲って、その幹の中でめきめきと裂ける音が聞え、そして小枝を折ったり、大枝をへしまげたりしながら、しめった土の上へ横ざまにどっと倒れた。斧の音と人の足
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