それらは何れも当の作者には不快となる。
自分の産み出した作品が、或は損害や阿諛[#「諛」は底本では「言+嫂のつくり」]を受くることは、或は侮辱や虐待を受くることは、作者の快しとする所ではあるまい。大家を更に鞭撻し激励せんとする勇気と新進作家を引立てんとする同情とは、之を他の種類の批評に求むるがよい。文壇は実力の競争場である。而も勝負を争う処ではない。其処にハンディキャップを持ち出すのは一種の冒涜である。
現在の作品を皆同一の標準で律すること、それが月評の務めでなければならない。勿論各作品が有する主張傾向色彩味雰囲気などはそれぞれ異るべきを考えれば、茲に云う標準ということは或る水準を指すものであって、点や線やではなく平面を指すことは断るまでもあるまい。斯くて聳ゆべきものは聳えしめ、埋もるべきものは埋もれしめ、成長したるものは成長したるものとし、小さき芽は小さき芽とし、各作品の如実な状態を、過去未来に亘る各作家の芸術ではなしに、各作品が形造る現在の文壇の形状を、そのままに伝えるのが、月評の使命でなければならない。なぜなら、月評はあらゆる情実を脱すべきであるから、字義通りに月評たるべきであるから、現在にのみ立脚すべきであるから、そして一月の評価は一月にして足れりであるから。但し、――私は茲に純粋の月評[#「純粋の月評」に傍点]のことを云うのである。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2005年12月8日作成
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