ばらくゆくと、すこしひろいところがあって、大きな木が四五本うわっていて、そのなかに、ちいさな噴水《ふんすい》がありました。ふるいきたない服をきて、靴もはかず、帽子《ぼうし》もかぶらないでいる、年をとった男が、噴水の水をのんでいました。
 エキモスは、はらがすいていますし、のどもかわいていましたので、その男にたずねました。
「その水は、だれでものんでいいんですか」
 年とった男は、ふりむいてこたえました。
「のんでいいとも。だが、うまい水じゃあないよ」
 でも、エキモスはうまそうにのみました。そのようすをみて、年とった男はいいました。
「お前さんも、どうやら、はらがすいてるようだね」
「ええ」とエキモスはこたえました。「どこでも、たべさしてくれないんです」
「どこでも……」
 エキモスは、りっぱなホテルから、おいだされた話をしました。年とった男はわらいました。
「そりゃあ、そうしたもんだよ。お前さんみたいな、きたないなりをした子供に、あんなところで食事をさせてくれるものかね」
「だって僕、お金はもってるんですよ」
 エキモスは、皮袋《かわぶくろ》から金貨を一つとりだして、みせました。

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