にききいっています。そのまんなかに、ひときわ大きいのが一ついて、角のかわりに獅子のようなながいたてがみ[#「たてがみ」に傍点]がはえ、全身の毛が金色に光っていて、眼が青々とすみきっていました。
その金の毛の大きな鹿には、エキモスもびっくりしました。そんな鹿は、これまでみたこともなければ、話にもきいたこともありません。エキモスが笛をやめて、うっとりみとれますと、鹿はその青くすみきった眼で、わらっているようでした。
エキモスは鹿のそばにやっていきました。金色のふさふさしたたてがみ[#「たてがみ」に傍点]をなでてやりました。鹿はうれしそうにすりよってきます。エキモスが笛をふきだすと、鹿はそばにすわってききいっています。そうして、エキモスと金色の鹿とは、いちばんなかのよいともだちになりました。
エキモスにとっては、何もうれしいことばかりでした。白い葦笛《あしぶえ》はいくらふいてもあきません。笛をふくと多くの鳥や獣がそれをききにでてきます。みんな仲よくして、ただ笛をきいているだけです。そのなかで、金色の鹿が王さまのように光っています。エキモスはいつもその鹿とつれだってあるきます。夕方になると、獣たちは森のおくに、鳥たちは空たかく、そしてエキモスと羊たちは小屋に、それぞれかえってゆくのです。毎日うららかに日がてって、野にはいろんな花がさいています。
ところが、ある日、金色の鹿がすがたをみせませんでした。ほかの鳥や獣はでてきましたが、金色の鹿《しか》だけは、エキモスがいくら笛をふいても、夕方までまってもでてきませんでした。
その翌日も、金色の鹿はやはりでてきませんでした。エキモスは心配になりました。それからかなしくなりました。もう笛をふく気もしませんでした。――金色の鹿はどうしたろう! エキモスはそのことばかり考えました。
二
金色の鹿がでてこなくなってから三日目の朝、エキモスはもう何のたのしみもなく、ただいつもの仕事をして、羊のむれをつれて野原にでました。葦笛《あしぶえ》をふく気にもなれませんでした。
すると、エキモスがやってくるのをまちうけてでもいたかのように、多くの鹿が森からかけだしてきました。そのうちの一つが、エキモスの上衣《うわぎ》のはしをくわえて、しきりに森の方へひっぱります。
何か用があるんだな、とエキモスは思いました。といっしょに、金色の鹿のことが胸にうかびました。もうじっとはしていられません。羊のむれをそこにのこして、鹿につれられて森のなかにはいっていきました。
森のおくふかくなると、人のとおった道もありません。それに、崖があったり坂があったりします。エキモスは一生けんめいに歩きましたが、やがてつかれてきて、足がうごかなくなりました。すると、大きな角《つの》のはえた鹿が、エキモスの前にかがんで、背なかをさしだしました。エキモスはその背にのって、しっかと角にしがみつきました。鹿は走るように早く歩きだしました。
うちひらけたところにでたり、森にはいったり、坂をのぼったり、谷川をわたったりしました。どれくらいきたのかわかりませんが、山ふかいところで、ふいに、谷川のそばの平地にでました。やわらかな草がいちめんにはえて、何ともいえぬよい香りの花がさいています。そしてたくさんの鹿《しか》がでむかえています。
その平地のおくの、崖《がけ》の下のところに、エキモスは鹿の背からおろされました。
みると、すぐそこの、草の上に、あの金色の鹿がよこたわっていました。エキモスは声をたててかけよりました。
金色の鹿は、そこによこたわったまま、身うごきも出来ませんでした。とぎれとぎれに、かすかな息をして、じっとエキモスの方をみているだけでした。しらべてみますと、肩のあたりから血が流れています。鉄砲でうたれたらしいんです。もうてあてのしようもありません。死にかけているんです。
エキモスはかなしさに涙ぐんで、そのそばにすわって、膝《ひざ》のうえに頭をのせてやりました。鹿はうれしそうに眼をつぶりました。エキモスは、その獅子《しし》のようにながいたてがみ[#「たてがみ」に傍点]をなでてやりました。それから白い葦笛《あしぶえ》をとりだして、さいごのわかれにふいてきかせました。
エキモスが心をこめてふく葦笛は、とてもいいあらわせない美しいひびきをたてました。谷川の水も、しばらくながれやんで、ききいりました。
エキモスが笛をふきやめると、もう、金色の鹿は死んでいました。
エキモスはそのまま、ながいあいだすわっていました。それから、金色の毛皮をすこし、かたみに切りとりました。そして死体を、そこの崖の下にうずめてやりました。
エキモスが帰りかけると、また、多くの鹿《しか》がおともをして、角《つの》の大きな鹿がエキモスを
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