ったり、左にまがったりして、やがて、ちいさなたべもの屋にはいりました。
 天井《てんじょう》のひくい、きたない部屋で、木のテーブルと木のこしかけとがならんでいて、ランプがくすぶっていました。でも、そこにいっぱいになった人々の顔は、どんなうつくしいあかりよりも、もっとはればれとかがやいていました。
 エキモスは、部屋のおくにたっている主人のところにいって、皮袋《かわぶくろ》から金貨を五つとりだして、かんじょう台のうえにならべました。
「これで、みんなの人に、うまいごちそうをしてください」
 主人は、びっくりしたようすをしました。そして五つの金貨をとって、皆の方へそれをうちふりました。
「おい、みなさん、これだけのごちそうだとよ」
 わーっとよろこびの声があがりました。
 声がでなくて、涙ぐんでる者もありました。エキモスもうれしくて、涙がでてきました。
 酒がでました。ごちそうがでました。たいへんなさわぎでした。みんな元気になりました。やせほそった病気の者も、あしたから仕事へでかけるといいだします。みんなが仕事のことをはなします。エキモスはまた金貨をとりだして、靴のない人たちのために、靴をかってきてもらいました。みんなが、あしたからは、自分たちだけで、都じゅうの仕事をするような、元気です。そしてはらいっぱいに、のんだりたべたりしました。
 しまいには、「神さまのお使い」のエキモスを胴上げして、よろこびさわぎました。
 夜がふけました。エキモスがねむそうな眼になりますと、たべもの屋の主人は、そまつな家ですが、そのなかのいちばんよい部屋につれていって、ねかしてやりました。

      四

 エキモスはたのしく眼をさましました。ゆうべのことをかんがえると、うれしくてたまりませんでした。あの人たちが、あんなによろこんで元気よく食事をしたことは、いままでにありませんでした。
 エキモスはたくさんの金貨を宿の主人にあずけて、ゆうべの人たちがきたら食事をさせてくれるようにたのんで、都のなかを見物にでかけました。
 いろいろな店がありました。いろいろな人がとおっていました。公園や博物館などもありました。
 夕方はやく、エキモスは宿にかえって、ゆうべの人たちをまちうけました。が、その人たちは、夜になって、二三人ずつ、つれだってやってきまして、お礼をいっただけで、もどっていきました。

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