んでいきました。
 太郎はふんがいしたように言いました。
「メーソフさん、あなたは、世間《せけん》から誤解されていますよ。みんなあなたのことを、ほらふきのインチキだと言ってますよ」
「ほう、どうしてですか」
と、メーソフはたずねました。
「昨日見せてもらった鉄の馬車《ばしゃ》ですね、あのことを、人に話したところが、あれはもう古くて役に立たないと、みんな言ってますよ」
 メーソフは目玉をぐるっと動かしました。
「あの馬車はすっかりさびついていて、動きはしないと、みんな言ってますよ」
 メーソフはまた目玉をぐるっと動かしました。
「あの馬車はただの飾りもので、引き出せば、ばらばらにこわれてしまうと、みんな言ってますよ」
 メーソフはまた目玉をぐるっと動かしました。
「あんな馬車を、さも大事そうに飾りたてとくなんて、メーソフはとんだインチキやろうだと、みんな言っていますよ」
 メーソフは、また目玉をぐるっと動かしました。
「ぼくがいくら弁解しても、誰もしょうちするものがありません。ぼくはくやしくてたまらないんです。だから、今日|一日《いちんち》、あの馬車《ばしゃ》を貸してください。あれに馬を
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