に光ってる世界です。誰も通る人もなく、犬の姿も見えず、小鳥の声も聞こえず、ただまっ白で、静かです。太郎は飛ぶようにすすんでいきました。
 街道からそれて、せまい坂道をしばらくのぼり、向こうの小高い丘の上、そこにおばあさんの墓がありました。
 太郎は墓の前の雪を払いのけ、青柴《あおしば》の枝を折ってきて供《そな》え、そして祈りました。
「おばあさん、もう五十日たちました。安らかに眠ってください。おばあさんがいなくて、ぼくはさびしいけれど……けれど……しっかり生きていきましょう」
 何度もおじぎして、そして帰りかけました。
 手足が冷たくかじかんで、身体《からだ》がこわばってくるようでした。でも、元気を出して、息をふうふうはきながら、雪を蹴散らして歩きました。
 墓地を出て、丘を下りかけ、大きな杉の木が一本立ってる曲り角まで来ましたときに、ばったり前に倒れました。
 太郎は自分でもびっくりして、頭をあげて見まわしました。そして、膝がしらで起き上がろうとすると……なおびっくりしたことには、杉の木の根元に、吹き寄せられて積もってる雪が、ひとかたまり、むくむくと動き出しました。おや……と思って、よく見ると、そのまん中に、金色と銀色との二つの玉が、ぴかりと光っています。……それが、猫でした。
 太郎は夢中に立ち上って、猫を抱きとりました。――一本の混じり毛もない、全身まっ白な小さな猫で、片方の目が金色で、片方の目が銀色で、長い尻尾《しっぽ》の毛がふさふさとして、白狐《しろぎつね》のようです。
 猫は太郎の胸にしがみついて、ニャーオ……と鳴《な》きました。
「おう、よしよし……寒いの……」
 太郎は猫をマントの中に入れてやり、上からしっかり抱きかかえて、うれしくてしようがありませんでした。もう寒さも疲れも感じませんでした。一散《いっさん》に家へ飛んでいきました。
「おじいさんおじいさん……猫がいたよ……あの大きな杉の木のところに……とてもきれいな猫ですよ」
 おじいさんは、こたつから出てきました。
「ほう、なるほど、これは珍しい、きれいな猫だ」
 太郎はマントも大黒帽《だいこくぼう》も手袋もたび[#「たび」に傍点]も、そこに放りだして、上がってきました。
「おじいさんの髭《ひげ》より、もっとまっ白でしょう 雪より[#「でしょう 雪より」はママ]白かったんだもの……」
 おじいさん
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