が、いきなり飛びこんでしまった。数百尺の断崖を、噴煙と火焔との渦巻いてる底の方へ、岩角にぶつかってははねかえりながら、一瞬のうちに転げ落ちる……。ただ一塊の肉体、頭も手足も分らないまんまるな姿、天空を落下する隕石のようになって……。
「君はそれを見たのか。」
「見た。ああいう時、人間も球形になる。」
「球形……。」
球形派の画家はただそう呟いたきり、大きな眼玉をぐるぐるさした。それを横から見ると、なるほど美しい眼だ。円くふくらんで少し不気味なほどぎょろりと生きて、街灯の光を表面に映して、黒目が底深く静まり返っている。
「行こう。」
「行こう。」
そう私達は云い合って、天体のように、自らの方向を取って、四辻をつっ切って歩き出した。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:田中敬三
2006年4月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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