したけれど、犯人の確実な手掛りは得られませんでした。張金田は市外の墓地に葬られましたが、李景雲の行方は全く分りませんでした。
 そして一ヶ月ばかり後のこと、西湖の西方の山地にある名刹霊隠寺の御堂に、端坐して祈念してる美しい中年の婦人がありました。彼女は涙の中の長い間の祈念の後に、そのまま静かに立去ってゆきました。そして其処に、象牙細工の精巧な画舫の小さなのを、人知れず置き残しました。その婦人は陳秀梅でありまして、象牙細工の画舫は李景雲を偲んだのでありました。
 その画舫にちなんで、かような伝説が綴られたのでありますが、李景雲の其の後のことは不明のままに致すより外はありません。



底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24])」未来社
   1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「帝大新聞」
   1941(昭和16)年1月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年11月13日作成
2008年1月15日修正
青空文庫作成ファイル:
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