茶苦茶に悲惨な心すさまじい日々が過ぎて行きました。
私には兄が一人ございます。今は遠方に住んでおりますけれど、その兄が、こういう私に、家と、少し離れてるところにある田を八段ばかりと、山を五段ばかり、私の名儀にして、お金を少々与えてくれました。けれど、小作料ぐらいの収入で、どうして生活してゆけましょう。私はそれからも兄に生活の僅かな補助を受けました。私のみすぼらしい虫のように哀れな貧しい生活は、ずっと続きました。
その間に、私の心も、自分以外の世間の空気に少しずつ触れる機会のある度に、次第にいろいろ移り変ってまいりました。けれど、私にはどうしても、この世に生きている人の心がわかりませぬ、わかりませぬ。人がみな私のことを世間知らずだと申します。私も人並に生きることを一生懸命に考えました。けれど、どうしても駄目でございます。私は人に触れては、つらい堪え難い痛手を心で受けるばかりでございます。
私はこの世には生きてゆけぬ心を持って生れて来た女でございました。
私はいつまでたっても、この世に浮び上ることが出来ませぬ。それは病気した体の弱いためか、過去に受けた心の傷のためか、それから長い間
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