舞い込んで来た美しい文字の手紙も、いいかげんに読んで、打ち捨てておいたが、あとで、なにか心にかかるものを感じて、ゆっくり読みなおしてみたのである。
お暑さ容易に去りませぬ候、吉岡先生には御機嫌うるわしく御消光遊ばされましょうか。私事、身の程もかえりみませず、ぶしつけにもお手紙など差上げます愚かさを、どのようにか無礼とお怒り遊ばしましょう。
この世で一番おえらいと思い申上げております先生、御写真を朝夕眺めましては、いつの間にかひとりで、夢にでもよい、お言葉を頂ける身になれたらなどと、とりとめもない心に、只そればかりをはかない生き甲斐として、胸の奥深くに抱き続けてまいりました。
私は何もわからない人生の門出に於て、もはや健全な健康を失ってしまいました。それがどのように悲惨なことか。死にも死にきれぬ、生きも生ききれぬ、苦しい苦しい懊悩に、人知れず血の涙を流してまいりました。
肉体のわずかな重荷にも堪えきれぬ、心のわずかな苦痛にも堪えきれぬ、虫のように、白痴のように、何もなし得ぬ我身の不甲斐なさを、どのように辱と忍従で受け味わねばならぬことでございましょう。愚かしくゆがみちぢんだ哀れ
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