さかあの女と……そう思い直して……。私あなたを買いかぶっていました。もっと立派な人だと思いっていました。北海道で関係をつけた女を、二人でしめし合せて家に引張り込んで、私の前では少し都合が悪いものだから、河野さんの家へ追いやって、始終媾曳をして、井ノ頭なんかに泊り込んだりして……。またあの女も女ですわ。あなたに倦きてくると松本さんを誘惑したり、河野さんに身を任せたり、丁度あなたには似寄っています。ほんとに似寄りの夫婦よ。あの女と結婚なさるがいいわ。私邪魔も何にもしやしません。黙って出て行きます。あの女が私の代りになって、私があの女の代りに河野さんの女中にでもなります。あなたよりか河野さんの方が、まだ男らしく立派です。」
 彼女はもうめちゃくちゃになって、自分で思っていないことまで口走ってるのが、私には感じられた。と共に、彼女が或る点まで確かな事実を知ってることも、私には感じられた。もうごまかせやしない、そう思うと却って腹が据って、私は初めからのことを告白して、そして納得させようとした。
「もう僕も隠しはしない。何もかも云ってしまうから、つまらない邪推はしないでくれ。」そして私は、北海道で
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