光る眼で私の方をじろりと見たが、ふいに真蒼になった。
「もうお互にはっきりしておこうじゃないか、何もかも万事を。」
「ええ、私はもう何もかもはっきり分ったわ。」
「そんなら、僕のこともよく分ってくれてるんだね。」
「分ってるわ、あなたがそんな人っていうことは。」
「またお前は……。」
「それから、自分がこんな女ってことも分ってるわ。だから私あなたを有難く思ってるのよ。」
 そして彼女はヒステリックに笑い出したが、その笑を中途でぷつりと切って、毒々しく光る眼で私の方を睥めた。
「いいえ、あなたばかりじゃない。何もかも有難く思ってるわ。」
「お前はまた、心にあることと反対のことばかりを云ってるね。もうこうなったからには真正直に物を云おうじゃないか。」
「ええ、私は昨日からずっと真正直だったわ。」
「そうも云えるけれど……。」
「反対だとも云えると仰言るの? 私何もあなたに隠しはしなかったわ。あなたこそ……いいえもういいわ。何だっていいわ。よく分ってることだから。」
 そして彼女は非常に陰欝な顔付になって、眼の光も消えてしまった。私はぞっとした。
「ねえ、お前は僕を許してくれる?」
「許すも
前へ 次へ
全89ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング