々っ児のように私の顔を覗き込んできた。それを私は、張り倒してやりたいような、また抱きしめてやりたいような、変梃な気持でじっと見返したまま、どうにもすることが出来なかった。
 栗飯を食べるために、私は静かな奥まった家へ何の気もなくはいっていったが、やがて自分の迂濶さに面喰った。私達を出迎えた女中は、銀杏返しに結って銘仙の着物をつけ、何を云うにも取澄した顔をしながら、身体全体で愛想を示す、可なり年増な女だった。通された室は奥の八畳の間で、衣桁から床の間の掛軸や水盤など、程よく整っていて、而も違棚の上には大きな鏡台が据えてあった。それになお、生憎今日はお風呂がございませんで……とわざわざ断られた。とんだことをしたと思ったが、もう取返しはつかなかった。女学生とも令嬢ともつかない光子の様子と自分の袴とに、変に気が引けながらも、いい加減に料理を註文しておいて、私はおずおず光子の方を窺った。彼女は何を考えてるのか、さも疲れたらしくぐったりと坐って、餉台にもたせた片手で頬を支え、室の隅にぼんやり眼をやっていた。私は弁解のつもりで云った。
「うっかりはいり込んだけれど……少し変な家でしたね。」
 彼女は
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