うしたんです、変に真面目くさった顔をして……。」
彼女はちらと私の方へ黒目を挙げてから、なお四五歩進んだ後で云った。
「私いろいろ考えてみましたけれど……。」
いくら待っても後の言葉がないので、私は静かに促した。
「で……どういうんです?」
「どうしたらいいか分らないんですもの。」
「一体何のことですか。話してしまったらいいじゃありませんか。私の顔を見てどうでもよくなったなんて……。」
「でもあの時は一寸そんな気がしましたけれど……やっぱり……。」
「話してしまった方がいいでしょう。私の顔に何か書いてあるわけでもないでしょうから。」
私は冗談にしてしまおうとしたけれど、今の彼女には手答えもなかった。日傘の先で地面をつっついて歩きながら、恐ろしく真剣に考え耽ってる様子だった。私は何となく不吉な予感を覚えた。実は彼女にその話をさせるために連出したのだったが、そして会話の調子でなおそれを求めてはいたが、公園にはいりかける頃から、もう聞かない方がよいかも知れないという気持が起ってきた。然しやがて、彼女の方から話し出してしまったのである。
日曜日でないせいか、公園の中には余り人はいなかっ
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