って仕方ないけれど、初めから破廉恥な計画なんかは少しもなかったのだ。僕は光子を井ノ頭に連れて行く時、別に何という気持も持ってやしなかった。ただ彼女からその大事なという話を聞こうと思っただけだ。光子が女だったのがいけないのだ。僕が誰か或る男と井ノ頭に散歩に行っても、お前は気を揉みもしなければ、何とも思いはしないだろう。女だって同じさ。僕はこう思ってる、夫婦というものは一つの生活をしてるのであって、その一つの生活ということのために、恋人同志やなんかよりも、もっと深く堅く結び合されてるのだと。もし僕が独身だったら、若い女やなんかと一緒に歩いたりする時、僕は屹度妙な気分に心をそそられるに違いない。然しお前と夫婦の生活をしてるので、一つの生活をしてるので、若い女の前に出ても僕は平気でいられるのだ。そういう所に、夫婦生活の強みと自由とがあるわけだ。妻を持ってる身の上だから若い女と一緒に歩くのは悪いというのは、本当の夫婦生活を知らない者の言葉だ。夫婦生活とはそんな堅苦しい窮屈なものではない。僕は光子と井ノ頭に行った時、少しも心にやましさを感じはしなかった。僕はお前と一緒の生活にしっかり腹を据えている
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