る時には、殊に独房に入れられてる場合には、到底生きてゆくに堪えられないそうである。それは吾々にもほぼ想像はつく。
 バラックの諸君よ、たとえ預金があり而も食物の配給を受くるにしても、諸君は何かの仕事をせずにはいられないだろう。焼跡の灰掻きでも何でもよい、また儲けは皆無でも構わない、ただ何かを為さずにはいられないだろう。終日手を拱いてぼんやりしていることは、諸君にとって最も苦しいに違いない。吾々は生きたいのだ、生活したいのだ。
 そして生きること――生活することは、何かを為す働きに外ならないのだ。
 このことを、諸君は平素の生活に於て、本当によく感じたであろうか。平素の生活に於ては、生活そのものを吾々の眼から遮るものが、余りに多くありすぎる。いろんな欲望の対象となるものが多々あって、吾々の眼はその方へばかり惹かれがちで、生活そのものを顧みる余裕が余りに少い。然るに今バラックの中に住んで、自分の生活をつくづく見つめる機会を得た諸君は、何かを為すということが如何なるものであるかを、本当によく知ったであろう。
 食物を得なければ命が保てない、というのは根本の原則である。そしてこの原則によりよく
前へ 次へ
全9ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング