。そのあとで自分自己をまた見出すとたいへんうれしかった。というのは、彼は自分自身を見失ったからである。人間の饒舌《じょうぜつ》のなかでは、自分の内部の声を聞きとることはできなかった。崇高なる沈黙なるかなである……。
 彼はただ門番の女かあるいはその子供のだれかが、日に二、三度用をしにくるのを許したばかりだった。手紙も彼らに出してもらった。彼は最後の日までエマニュエルと手紙の往復をつづけた。二人はほとんど同じくらいひどく病んでいた。そして自分の命に空《から》望みをかけてはいなかった。クリストフの宗教的な自由な天才と、エマニュエルの無宗教的な自由な天才とは、異なった道を通って、同じ親和的な晴朗の域に達していた。二人はしだいに読みにくくなる震えた手跡で、自分たちの病気のことをではなく、常に話題としていた事柄について、自分たちの観念の未来や自分たちの芸術などについて、話をし合った。
 そして最後にある日、クリストフはもうきかなくなり始めてる手で、戦死しかけたスウェーデン王の言葉を書いた。

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――予はこれにて足れり[#「予はこれにて足れり」に傍点]、兄弟よ[#「兄弟よ」に
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