供といっしょだった。彼はその子供たちを、なお多少の困惑と多くの情愛とをもってながめた。そして姉娘のほうは母親に似てると思った。弟のほうはだれに似てるかを問わなかった。二人はこの土地のことや天気のことやテーブルの上に開かれている書物のことなどを話した――が二人の眼は他の言葉を語っていた。彼は彼女にもっと親しく話せるつもりでいた。そこへ、彼女と旅館で知り合いの女がはいって来た。グラチアがその他人を迎える愛想のよい丁重さを彼は見た。彼女は二人の客の間に差別を設けていないらしかった。彼はそれが悲しくなった。しかし彼女を恨みはしなかった。彼女は皆でいっしょに散歩しようと言い出した。彼は承諾した。グラチアの友の女は年若くて快い人柄ではあったが、それといっしょなのが彼には嫌《いや》だった。そしてその日もだめになってしまった。
 彼がそのつぎにグラチアと会ったのは二日たってからだった。その二日の間、彼はただ彼女とともに過ごす時間のためにばかり生きていた。――けれどこのたびもまた、彼女と隔てなく話すことができなかった。彼女は彼にたいして温良ではあったが、例の控え目な態度を捨てなかった。クリストフは知らず
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