で、時としますと、それらの悪魔の群れを世に放《はな》って悪い行ないをしてるように、我ながら思われることがあります。聴衆が落ち着いてるのを見ると初めて安堵《あんど》します。彼らは二重も三重もの鎧《よろい》をつけています。何物からも害せられることがありません。もしそうでなかったら私は天罰を受けることでしょう……。あなたは私が自分自身にたいしてあまりに厳格だとおとがめなさいます。けれどそれは、私ほどによく私自身を御存じないからです。人はわれわれがどういうものになってるかを見てとります。しかしわれわれがどういうものになり得たろうかを見てとりはしません。そして人々がわれわれをほめるのは、われわれ自身の価値から来たところのものについてよりもむしろ、われわれを運ぶ事変やわれわれを導く力などから来たところのものについてです。私に一つの話を述べさしてください。
先日の晩、私はある珈琲《コーヒー》店へはいりました。この種の珈琲店では、変なふうにではあるがかなりいい音楽がやられています。五、六の楽器をピアノに添えて、交響曲《シンフォニー》やミサ曲や聖譚曲《オラトリオ》などが演奏されています。ちょうどローマ
前へ
次へ
全340ページ中103ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング