呂律《ろれつ》の回らぬ叫び声をたてていた。その手は毛布を握りしめながら、そこに物を書くような格好をしていた。そして疲れきった彼の頭脳は、それらの和音がどういう成分でできてるかを、またどういう意味を告げてるかを、機械的に詮索《せんさく》しつづけていた。しかしどうしても捜し出すことができなかった。感激のあまりとらえる手先に力がはいらなかった。彼はまたやり始めた……。ああこんどは、あまりに……。
「やめてくれ、やめてくれ、もう俺にはどうにもできない……。」
彼の意志はまったくゆるんでしまった。静かに彼は眼をふさいだ。幸福の涙が閉じた眼瞼《まぶた》から流れた。そばについてる小娘が、慎《つつ》ましくその涙を拭《ふ》いてくれたが、彼はそれに気づかなかった。彼はこの下界に起こってることをもう何にも感じなかった。管絃楽は沈黙してしまって、眩暈《めまい》を起こさせるほどの諧調《かいちょう》の上に彼を取り残した。その諧調の謎《なぞ》は解けていなかった。彼の頭脳はなお強情に繰り返した。
「いったいこの和音は何物だろう? どうしたらこれから抜け出せるだろうか。どうあっても出口を見出したいものだ、おしまいにならない前に……。」
こんどは人声が起こってきた。情熱のこもったある声。アンナの悲痛な眼……。しかし瞬間に、それはもうアンナではなかった。温情に満ちてるあの眼……。
「グラチア、お前なのか?……だれだい、だれだい? 私はもうよく見てとれない……。どうして太陽はこういつまでも出ないんだろう?」
静かな三つの鐘が鳴った。窓ぎわの雀《すずめ》たちがさえずって、昼食の屑《くず》をもらうべき時間を彼に思い出させようとした……。クリストフは自分の子供のころの室を夢に見た……。鐘が鳴る。夜明けだ! 美しい音の波は軽やかな空気の中を流れてくる。それはごく遠くから、彼方《かなた》の村々からやってくる……。河の響きが家の後ろに起こっている……。クリストフは階段の窓口に肱《ひじ》をついてる自分の姿を思い浮かべた。彼の全|生涯《しょうがい》はライン河のように眼の下に流れていた。全生涯、いろいろな生活、ルイザ、ゴットフリート、オリヴィエ、ザビーネ……。
「母よ、恋人たちよ、友人たちよ……彼らはどういう名前だったかしら?……愛よ、君はどこにいるのか。私の魂たちよ、どこにいるのか。私は君たちがそこにいることを知っ
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