分の手でこしらえ上げたその秩序によって感ずる享楽は、実在せるものにたいする直接の直覚をゆがめなければ得られなかった。ただときどきある天才が、大地としばし接触しては、芸術の領域からあふれてる現実の急流に突然気づく。堤防は張り裂ける。自然は割れ目からはいってくる。しかしすぐに穴はふさがれる。人間の理性を保全するためにそれが必要である。人間の理性はもしエホバと眼を見合わしたら滅びてしまうであろう。かくて理性はふたたびおのれの独房をセメントで固め始める。そこへは理性がこしらえたもののほかは何も外部からはいって来ない。そしてそれはおそらく、見ることを欲しない者にとっては美《うる》わしいであろう……。しかし予は、エホバよ、汝の顔を見んことを欲する。たとい撃滅されようとも、汝の雷のごとき声を聞かんことを欲する。芸術の声音では窮屈である。人の精神よ黙れ! 人間に沈黙あれ!……
 しかしそういうりっぱな口をきいてから数分たつと、彼は蒲団《ふとん》の上に散らかってる紙を一枚手探りに捜して、それになお多少の譜を書きつけようとした。そして自分の矛盾に気がついたとき、彼は微笑《ほほえ》んで言った。
「おう私の古い伴侶《はんりょ》よ、私の音楽よ、お前は私よりも善良である。私は恩知らずにもお前を追い払おうとした。しかしお前はけっして私を離れない。私の気紛れにも気を落とさない。許しておくれ、お前も知ってるとおりあれは冗談だ。私はかつてお前を裏切ったことがないし、お前はかつて私を裏切ったことがないし、私たちはたがいに信じ合っている。ねえ、いっしょに旅だとう。最後まで私といっしょにいておくれ。」

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とどまれよわれらのそばに[#「とどまれよわれらのそばに」に傍点]……
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[#「とどまれよわれらのそばに」の楽譜(fig42599_02.png)入る]

 彼は熱と夢とで重々しい長い喪心の状態から覚めた。覚めたあとまでもまだ残ってる不思議な夢だった。そして、今彼は、自分の身を顧み、自分の身体にさわり、自分自身を捜し求め、もう自分で自分がわからなかった。あたかも「も一人の者」になったかのような気がした。自分自身よりもいっそう親愛なも一人の者……それはいったいだれだったか?……夢のなかでその者が自分のうちに化身《けしん》したかのようだった。それはオリヴィエか、グラ
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