教者や英雄などを出した自由[#「自由」に傍点]にたいする信念、人類にたいする愛、諸国民や諸民族の親和にたいする敬虔《けいけん》な翹望《ぎょうぼう》――それをこれらの青年らは何たる盲目な暴戻《ぼうれい》さをもって冒涜《ぼうとく》してることだろう! われわれが征服したあの怪物を愛惜し、われわれが折りくじいたあの軛《くびき》の下にまたみずからつながれ、暴力の世を大声に呼びもどし、憎悪をふたたび燃えたたせ、わがフランスの心中に戦争の狂気をふたたび起こさせるとは、なんたる狂乱した仕業だろう!
「それはフランスばかりではない、世界全体がそうなんだ。」とクリストフは笑うような様子で言った。「スペインからシナに至るまで、同じ突風が吹き渡っている。その風を避けられる片隅《かたすみ》もありはしない。ねえ、おかしなことになってきたじゃないか、あのスイスまでが国家主義になっている。」
「それで気が安まるのですか?」
「安まるとも。これによって見ると、そういう風潮は数人の滑稽《こっけい》な熱情から来たものではなくて、世界を統ぶる隠れた神から来たものらしい。そしてその神にたいしては、僕は頭を下げることを覚えたのだ。もし僕がその神を理解しないとしても、それは僕が悪いので、神が悪いのではない。神を理解しようとつとめたまえ。しかし君たちのうちだれか理解しようと心がけてる者があるか。君たちはただその日その日を送り、すぐつぎの限界より先には眼をつけず、その限界を道の終極だと想像している。自分たちを運び去る波だけを見ていて、海を見ていない。今日の波を湧《わ》きたたしたのは、われわれの昨日の波だ。また今日の波は、明日の波の畝《うね》を掘るだろう。そして明日の波は、われわれの波が忘れられたと同じように、今日の波を忘れさしてしまうだろう。僕は現時の国家主義に賛成もしなければ恐れもしない。それは時とともに流れてゆく。もう過ぎ去りかけてる、過ぎ去ってしまってる。それは階段の一つの段である。階段の頂まで登りたまえ。今の国家主義などは、やがて来たらんとする軍隊の先駆者だ。その軍隊の笛や太鼓の鳴るのがもう聞こえてるじゃないか……。」
(クリストフは太鼓の音をまねて机をたたいた。そこにいた猫が眼を覚まして飛び上がった。)
「……現在では、各民衆はそれぞれ、自分のあらゆる力を寄せ集めてその貸借表を作り上げようとの、やむにやま
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