た良心だとクリストフは言っていた。その生きた良心を窒息させるためによく帽子をかぶせた。それはごくありふれた種類の虚弱な猫で、往来で打ち殺されかかったのをエマニュエルが拾ってきたのだった。いじめられて弱った身体がいつまでも回復せず、ろくに物も食べず、ふざけることもあまりなく、物音一つたてなかった。ごくおとなしくて、怜悧《れいり》な眼で主人の様子を窺《うかが》い、主人がそこにいないと寂しがり、主人のそばに机の上に寝るので満足し、いつもぼんやり考え込んでいて、時には幾時間もうっとりと、手の届かない小鳥が飛び回ってる籠《かご》を見守り、ちょっと注意のしるしを見せられても丁重に喉《のど》を鳴らし、エマニュエルの気紛れな愛撫《あいぶ》やクリストフのやや乱暴な愛撫に、気長く身を任せて、引っかいたり噛《か》みついたりしないようにいつも用心していた。ごく弱々しくて、片方の眼から涙を流し、小さな咳をしていた。もし口をきくことができるとしたら、二人の友人たちのように、「少しも煙草《たばこ》のせいではない、」と厚顔にも言い張ることはしなかったろう。しかし二人のすることはなんでも受け入れていた。ちょうどこう考えてるかのようだった。
「彼らは人間だ、自分のしてることがわからないのだ。」
 エマニュエルはこの猫をたいへんかわいがっていた。その病身な動物と自分との間に運命の類似があるように思っていた。似てると言えば眼の表情までも似てるとクリストフは言った。
「当然ですよ。」とエマニュエルは言った。
 動物はその環境を反映する。その顔貌《がんぼう》は接近してる主人たちのとおりに仕上げられる。愚昧《ぐまい》な者の飼ってる猫は、怜悧な者の飼ってる猫と同じ眼つきではない。家の中に飼われる動物は、ただに主人の仕込みによってばかりではなく、主人の人柄によって、善良にもなれば邪悪にもなり、磊落《らいらく》にもなれば陰険にもなり、機敏にもなれば遅鈍にもなる。また人間の影響ばかりではない。周囲のありさまも動物を同じ姿に変化させる。知的な景色は動物の眼を輝かせる。――エマニュエルの灰色の猫は、パリーの空に輝《て》らされてる息苦しい屋根裏と不具の主人とに、よく調和していた。
 エマニュエルも人間らしくなっていた。初めてクリストフと知り合ったころとはもう同じではなかった。家庭的悲劇のために深く揺り動かされたのだった。彼と
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