その存在を知りさえすればよい。平静に汝の義務を果たして、神のなすところに任せよ。」
「われにはもう力がない。」
「強き人々のために歌えよ。」
「わが声はくじけている。」
「祈れよ。」
「わが心は汚れている。」
「その心を捨て去って、予の心を取れよ。」
「主よ、おのれ自身を忘れるのは、おのれの死せる魂を投げ捨てるのは、訳もないことである。しかしわれは死せる人々を投げ捨て得ようか、愛する人々を忘れ得ようか?」
「汝の死せる魂とともに、死せる彼らを捨て去れよ。汝は生ける彼らを予の生ける魂とともにふたたび見出すであろう。」
「おう、われを見捨てた汝《なんじ》、汝はまたわれを見捨てんとするのか?」
「予は汝をまた見捨てるであろう。それをゆめ疑ってはいけない。ただ汝こそもはや予を見捨ててはならないのだ。」
「しかしわが生が消滅したならば?」
「他の生に火をともせよ。」
「死がわれのうちにあるとするならば?」
「生は他の所にある。いざ、その生に向かって汝の戸を開けよ。己が廃墟《はいきょ》に閉じこもっているは愚かである。汝自身より外に出でよ。他にも多くの住居がある。」
「おう生よ、おう生よ! われは悟った……。われはおのれのうちに、空しい閉ざされたる己が魂のうちに、汝を捜し求めていた。わが魂は破れる。わが傷所の窓から、空気は流れ込む。われは息をつき、われはふたたび汝を見出す、おう生よ!……」
「予は汝をふたたび見出した。……口をつぐんで耳を傾けてみよ。」

 そしてクリストフは、自分のうちに起こってくる生の歌を、泉の囁《ささや》きのように聞き取った。彼は窓際に身を乗り出して、昨日まで死んでいた森が、日の光と風との中に、大洋のように盛り上がって湧きたってるのを見た。樹木の背骨の上を、歓喜のおののきのように、風の波が通っていった。撓《しな》ってる枝々はその喜びの腕を、光り輝く空のほうへ差し伸ばしていた。急湍《きゅうたん》は笑ってる鐘のように響いていた。昨日は墳墓の中にあったその同じ景色が、今はよみがえっていた。クリストフの心に愛がもどって来るとともに、景色にも生命がもどってきていた。聖寵《せいちょう》に触れた魂の奇跡よ! その魂は生に眼覚める。その周囲でもすべてが生き返る。心臓はふたたび鼓動し始める。涸《か》れた泉はふたたび流れだす。
 クリストフはまた崇高な戦いのうちに加わった……。
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