そういう苦しみを知りました。」
「ほんとうですか?……だがそんなことはどうでもいいです。あなたがあの女と同じようなことをされようとは、僕にはけっして信じられません。」
「私には子供がありませんよ、クリストフさん。あの女《ひと》の身になったらどんなことをしたかわかるものですか。」
「いいえ、そんなことはありません。僕はあなたを信じています。あなたを尊敬しすぎてるくらいです。そんなことはないと僕は誓います。」
「誓えるものではありません。私もあの女《ひと》と同じようなことをしかかったことがあります……。あなたからよく思っていただいてるのを打ちこわすのは、心苦しいことですけれど、あなたも、誤った考えをいだくまいと望まれるなら、私たち女のことを少しお知りにならなければいけません。――まったくです、私はあの女《ひと》と同じような馬鹿げたことを危うくするところでした。そして私がそれをしなかったのも、多少はあなたのおかげです。ちょうど二年前のことでした。私はそのころ、悲しみに身を噛《か》まれるような心地がしていました。いつもこう考えていました、私はなんの役にもたたない、だれも私に注意をしてはくれない
前へ 次へ
全339ページ中290ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング