ピアノのところへ行って、それを彼女に歌ってきかした。彼女はそのとんだ楽天家を抱擁した。彼は彼女のためになっていた。しかし彼女は彼の害になっていた。少なくとも彼女は、彼の害になるのを恐れていた。彼女は絶望の発作に襲われることがあって、それを彼に隠し得なかった。愛のために彼女は気が弱くなつていた。夜、二人相並んで床についてるとき、彼女が無言のうちに苦悶《くもん》をのみ下してるとき、彼はそれを察するのであった。そして、すぐそばにいながらしかも遠い彼女に向かって、その圧倒してくる重荷を自分にも共に荷《にな》わしてくれと願った。すると彼女は逆らい得ないで、彼の腕の中で泣きながら、自分の苦しみを打ち明けた。そのあとで彼は幾時間も、親切に穏やかに彼女を慰めた。しかしその絶えざる不安は、長い間には彼女を打ち負かさずにはいなかった。自分の焦慮がついには彼へも感染しはすまいかと、彼女は恐れおののいていた。彼女は彼を深く愛していたので、自分のために彼が苦しむという考えに堪えられなかった。彼女はアメリカへの契約を申し込まれていた。むりに立ち去るためにそれを承諾した。恥ずかしい気持でいる彼と別れた。彼と同じくら
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