楽の方面においては、衆にぬきんでることさえできないでいる他の多くの者の才能に比べても、アントアネットの才能はしごく平凡なものであることを、認めないわけにはゆかなかった。ジャンナン一家の者は、恐ろしい生存競争を見出し、また、パリーが使い道のない大小の才能をやたらに蕩尽《とうじん》してることを見出したのであった。
二人の子供は落胆して、自分の価値をひどく見下げた。彼らは自分をつまらない者だと思った。それをみずから証明し母親にも証明しようとあせった。田舎《いなか》の学校でたやすく秀才となり得ていたオリヴィエも、種々の難儀に圧倒されて、天分をことごとく失ってしまったかのようだった。新たにはいった中学校で首尾よく給費生になり得たが、最初のうちは級別が不運だったので、給費生の資格を取り上げられた。彼はまったく自分は馬鹿だと考えた。同時に彼はまた、パリーが厭《いや》だった。うようよしてる人込みや、仲間の者らの汚ない不品行や、彼らのみだらな話や、彼にも忌まわしいことを勧めずにはおかない数名の者らの獣性などが、厭でたまらなかった。軽蔑《けいべつ》の意を彼らに言ってやるだけの力さえなかった。彼らの堕落を
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