んこ》の音がし、荒々しい哄笑《こうしょう》の声が湧《わ》きたった。その快活な騒ぎは、台所の召使どもにも感染し、表を通りかかる人々にも感染していった。
その後、オーギュスタン老人は、ごく暑い夏のある日、葡萄《ぶどう》酒を瓶《びん》につめようと思いたって、シャツ一つになって窖《あなぐら》へ降りていったが、そのとき肺炎にかかった。そして二十四時間とたたないうちに、あまり信じてもいないあの世へ旅だってしまった。もとより教会のあらゆる秘蹟《サクラメント》は行なわれたが、それも田舎《いなか》のヴォルテール主義者である善良な中流人士としてであって、女どもからかれこれ言われないために、臨終のおりされるままに任したのだった。彼にとってそれはどの道同じことだったし……また、死後のことはわかるものではない……。
息子のアントアーヌがその業務を引き継いだ。でっぷりした赭《あか》ら顔の快活な小男で、剃《そ》り残してる長めの頬髯《ほおひげ》、聞き取れないほどの早口――いつも騒々しくって、ちょこちょこ動き回っていた。彼は父ほどの経済的知力をもってはいなかったが、監理者としてはかなりの腕をもっていた。着手されてる
前へ
次へ
全197ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング